
「お金の教養」シリーズというタイトルで執筆することにした経緯に触れます。
筆者が、社会人生活のほとんどを総務人事担当として、人事に関する各種業務を通じて、従業員サービスの提供者としていろんな経験をしてきたなかで、「すべての人にとって、お金の教養がとても重要である」という結論に至りました。これから具体的な事例を何点か紹介することで、「お金の教養」の必要性を感じ取っていただけたら幸いです。
1.退職後のお金って他人ごと?
筆者自身は、大学を卒業後に、サラリーマンとして東証プライム市場に上場する会社に入社し、1年目は現場第一線研修と称して企業グループのいくつかの事業子会社にて現場経験を積んできた後、人事部に配属となり、最初は退職給付制度改定プロジェクトに参画することになりました。
退職給付制度の改定(ポイント制退職一時金制度・確定拠出年金制度の導入)
退職給付制度は、簡単に言えば「退職金」や「退職年金」のこと。この退職給付制度に大きな変化が生じたのは、法律で定められていた「退職年金」の税制優遇制度であった「適格退職年金制度」が仕組みの上で廃止となる(2002年4月以降は新設できなくなり、2012年4月以降は税制優遇が受けられなくなる)ことを受けて、会社では、「退職金」については「ポイント制退職一時金制度」に、「退職年金」については「確定拠出年金制度」に移行することが機関決定されました。
導入時教育(確定拠出年金制度に関する投資教育)
それぞれの制度の詳細説明はここでは省略しますが、新たに導入される「確定拠出年金制度」については、従業員が個人ごとに毎月決められた金額(掛金)を、従業員自身が会社から提示された運用商品の中から選択して、それぞれの運用商品に拠出する掛金の比率を決めて運用していくことが必要な制度であり、すべての従業員に対して、会社は導入時研修の1つとして「投資教育」の実施が必要でした。
義務教育に限らず高校・大学においても、経済・金融商品の仕組みや個人ごとの資産形成に関する金融経済教育がきちんと実施されていない世代であり、「(未知のことなので)何となく運用ってこわい」等の声を多く聞きました。
仕方がないと言えば仕方がない状況ですが、筆者はこの導入時教育を実施する側として、新制度開始までの数か月間ですべての従業員(約5,000名)に、「制度概要説明」および「投資教育」を実施したうえで、すべての従業員から「運用指図書(掛金をどの商品にどの比率で拠出するかを金融機関に指示する書類)」などを回収する必要がありました。
自分の将来に対して他人ごとな反応…
導入時教育の結果、(定年)退職までの時間が長くなればなるほど、「目の前のお金のことじゃないので、自分には関係ない(いざとなれば会社が何とかしてくれるでしょ?)」や「『説明を聞いたものの、資産運用がよくわからない』ので全額定期預金にする」、「これまで会社が企業年金を運用してきたのに従業員に無理やり押し付けてきたのだから、自分は絶対に運用なんてやらない(だから全額定期預金にする)」といった、自分が未知・未経験のことについては思考停止に陥る、もしくは会社に受け身の姿勢で「おんぶに抱っこ」状態で、まるで他人ごとの方が少なからずいたことが残念でした。
インフレリスクを考えると「定期預金100%」という選択肢は…
制度導入後も、(定年)退職が近づいてから、はじめて自分の受取金額が「こんなはずじゃなかった」とならないように、「公的年金を補完するのが退職給付制度(退職金+退職年金)」であり、「利息がほぼ付かない定期預金のみで運用し続ける場合には、老後資金の不足分を自分自身で逆算して別途、今の段階から毎月の積立が必要である」ことを強調して情報発信をし続けましたが、残念ながら、「退職給付制度」に他人ごとの態度をとる方のほとんどが「聞く耳をもたず」で、上手く伝え切ることができませんでした。
現実的に定年を迎えたときにどうなってしまうんでしょう…
筆者からすれば、それこそ他人ごとなのですが、彼らの老後が心配です。
定年後も、公的年金と退職給付制度で足りない分は、「働いて補足する」か「生活を切り詰める」のか、「自分の子供の世話になる」といった選択肢あたりが待っています。
2.新入社員にお伝えしている「社会人に必要な3つの管理」
筆者は約10年間にわたって人事部に所属していたこともあり、人事賃金制度の企画や制度設計だけではなく、採用や研修、従業員サービス(福利厚生)なども担当してきました。
社会人に必要な3つの管理
新入社員研修を担当するときには、必ず「社会人に必要な3つの管理」について話をしています。
「社会人に必要な3つの管理」について簡単に紹介すると、
特に、3つ目の「お金の管理」については、会社の福利厚生制度(グループ保険・財形貯蓄・従業員持株会など)の制度説明・活用方法や、確定拠出年金の制度説明・投資教育も同時に行うこともあり、社会人として知っておきたい「お金の教養」について触れる機会が多くありました。
新入社員の方が、自分の「お金」に関連する制度・仕組みに前向き
新しく入社してくる新入社員にとっては、確定拠出年金制度は、会社が制度としてあらかじめ用意した(定年)退職後の金融資産の「定期預金・保険商品・投資信託への投資」制度であり、リスクとリターンの話をする際には「全額定期預金を選択するリスク(インフレリスク)」にも触れていますので、既存の従業員と比べると、新入社員の方が「社会人として必要な知識」として、税制上のメリットが多い確定拠出年金に関する興味・関心が高く、はじめての「金融商品の運用」として、上手に利用している印象があります。
3.人生における大きな買いもの
人生における大きな買いものといえば、住宅(自宅)・自家用車がすぐに浮かびますが、実は、保険も計算してみると結構大きな買いものの1つだったりします。
あまり深く考えることなく加入している「保険」ってホントに必要?
先ほどの「運用はよくわからないから全額定期預金にするよ」と言っていた既存の従業員の多くが、住宅も車も保険もすべて手にしていますが、特に保険については、職域セールスの保険レディーから加入しているケースがとても多いことに驚きました。そんな彼らから「君も保険に入っておいた方がいいよ」と加入を勧められることがあるのですが、「どんな保険に入っているのですか?」と伺ってみると、「うちの職場のほとんどの人が同じ保険に加入しているし、保険レディーもおススメしている商品なので安心だよ。具体的な内容は職域セールスの保険レディーを紹介するから直接内容を確認してみてね。」ということでした。多くの方が20歳頃に職場の先輩の紹介で言われた通りの保険商品に加入していて、そのまま約40年間加入し続けながら、保険の内容をロクに知らないという事実に驚きました。計算してみると、毎月の保険料を積み上げるだけで軽く1,000万円を超える高いお買いものです。
必要十分な保障を設計できるグループ保険を上手に使おう
従業員サービス(福利厚生)を担当するようになって、改めて公的な制度・仕組みや、会社が制度として用意しているグループ社員向けの保険商品を組み合わせれば、先ほどの職域セールスから加入している保険商品より約3~4割を超える低い保険料で、さらに充実した保険の保障内容を用意できることがわかりました。これは、これまでの従業員サービス担当者が、福利厚生制度の紹介・加入促進活動が不足しているのが原因です。
実際、「会社の福利厚生制度がよくわからない」「周りの人からから『おススメの良い制度』と言われたから加入してみた(けど、内容をよくわかっていない)」という声を何度も聞くうちに、改めて、会社が用意している従業員サービス(福利厚生)の制度・仕組みを理解してもらう必要性を強く感じるようになりました。
会社が用意している福利厚生制度をきちんと理解して最大活用しよう!
そこで、公的な保険制度と組み合わせた従業員サービス(福利厚生)の活用方法に関するセミナーをお試しで開催してみたところ、参加者から「そんな制度・仕組みがあるって全然知らなかったし、もっと早く言って欲しかった」とか、しみじみと「うちの会社って、従業員のことを考えていろんな制度・仕組みを用意してくれているんだねぇ」などという感想を聞くにつけて、「お金の教養」や会社の制度・仕組みを知っておく大切さを痛感してきました。
4.お金に困る人・困らない人の違い
会社の制度をきちんと理解していないのは、グループ各社でも同じ状況
人事部を離れてからは、複数のグループ会社に出向して総務・人事分野の業務に就く機会が多く、これまでに話したような「お金の教養」に関する実情が例外なく同様に見えてきました。
学校教育でも会社でも、「お金の教養」について学習する機会がないまま今日に至っている方がほとんどであるというのが、社会人経験約25年の結論です。
お金に困る人・困らない人の違い
とは言いながらも、少なからず自分自身で「お金」について学習している方もいまして、グループ会社でもできる限り簡単に制度・仕組みを説明する機会を設けてみると、非常に細部にわたるご指摘や筆者自身の知識があいまいだった点のご指摘を受けることも多々ありました。
「お金に困る・困らない」は、給与水準はほとんど関係ない
いろんな経験から再認識したこととしては、「毎月のお給料が多いからお金持ちになれる」のかと言えば、必ずしもそうではありません。たくさんの収入があってもそれ以上に支出が多いと、毎月の収支はマイナスになってしまうことはよくある話です。一方で、必ずしも収入が多くなくても、豊かな生活を過ごしている方も多くお見掛けしてきました。さて、その違いってなんでしょうか。「お金の教養」シリーズではこのあたりを掘り下げていきます。
今回執筆していく「お金の教養」シリーズについては、その名のとおり「お金に関する教養を深める読み物」として、お金について、「貯める」・「稼ぐ」・「増やす」・「守る」・「使う」の5つの要素に分解して、できるだけ簡単でお手軽に「お金との上手な付き合い方」について紹介していきます。
「お金の教養」シリーズの目的は、ズバリ、「お金の教養」を身につけて、一人でも多くの人が、人それぞれで異なる収入の多寡に関わらず「豊かで不安のないライフスタイルを送る」ための一助となることです。

